川上未映子先生の最新作!「夏物語」を読む!

川上未映子先生の最新作!「夏物語」を読む!

帯の背表紙に「21世紀の世界文学」と謳われている本って珍しくないですか?・・というより、その評価というか、その本に対するプレッシャーやばくないですか?

どうやら世界数十カ国で翻訳が決まっているようなので、「21世紀の世界文学」と言い切れるのでしょう。そんな本が2019年7月に刊行されております。

川上未映子さんの「夏物語」という本です!

今回は、この「夏物語」という小説を読んだ感想を書いてみようと思います。

 

まずはじめに、僕が川上未映子という小説家を知ったのは、SWITCH✕SWITCHというNHKの番組でした。

僕自身が「君の名は」で超がつくほど有名になった新海誠作品の初期からのファンで、その番組に新海誠さんが出演するということで録画して観たわけなんですが、その対談の相手が川上未映子さんでした。

その名前を初めて知り、いつかこの人の本を読んでみようと興味が湧いていて、興味本位に最初に読んだ本が「ヘヴン」という作品でした。(興味本位で読む作品ではなく、素晴らしい本でした。)

 

この作品を読んで、その才能に触れ、僕は川上未映子先生のファンになりました。

 

作家年表

 

次に川上未映子さんの作家年表について書いてみます。

 

1976年大阪府生まれ。

2007年「わたくし率 イン 歯ー、または世界」「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」で早稲田大学坪内逍遥大賞励賞、

08年「乳と卵」で芥川賞、

09年集「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」で中原中也賞、

10年「ヘヴン」で芸術選奨問部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、

13年詩集「水瓶」で高見順賞、「愛の夢とか」で谷崎潤一郎賞、

16年「マリーの愛の証明」でGRANTA Best of Young Japanese Novelists、「あこがれ」で渡辺淳一文学賞を受賞。

他の著書に「すべて真夜中の恋人たち」、「きみは赤ちゃん」、「みみずくは黄昏に飛びたつ」(村上春樹氏との共著)、「ウィステリアと三人の女たち」など。

17年には「早稲田文学増刊 女性号」で責任編集を務めた。

となっております。

ウィキでいろいろと調べていたら、情熱大陸なんかにも出演されていらっしゃるようで、メディアからも注目されている作家さんです!

 

あらすじ

 

大阪の下町に生まれ育ち、東京で小説家として生きる38歳の夏子には、「自分の子どもに会いたい」という願いが芽生えつつあった。パートナーなしの出産の方法を探るうち、精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢潤と出会い、心を寄せていく。いっぽう彼の恋人である善百合子は、出産は親たちの「身勝手な賭け」だと言い、子どもを願うことの残酷さを夏子に対して問いかける。この世界は、生まれてくるのに値するのだろうか―――。

生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いに満ちた極上の筆至で描く、21世紀の世界文学!

( 小説、夏物語の帯より抜粋 )

と書いていますが、夏物語は二部構成で物語として成り立っていて、↑のあらすじは第二部の内容で夏子が38歳の頃の物語です。第一部は夏子が30歳の頃の物語です。

 

それと、余談ですが、川上未映子先生の単行本ってこだわりが凄くて、今回の夏物語は、すっごく紙が薄い印象です。600pの長編小説なのですが、400〜500pくらいの厚みになっているのではないかと感覚的に思います。

さらに、1枚1枚が薄い恩恵なのか、紙がペタっと重力に負けてくれるので指のはらで押さえて読まなくていいので、辞書の紙ほどではありませんが、非常に軽くて手触りもよく、こだわりのある単行本になっていました。

 

夏物語を読む!

 

冒頭・・緑子という名前に巻子という名前・・どこかで聞いたおぼえがある!それにこの物語・・一度読んだことがある・・そうだ・・この小説は「乳と卵」だ!

事前情報なしで購入し読み始めたので、夏物語という小説が、まさか「乳と卵」の続編だということに驚いたswitchであります。というか、第一部は「乳と卵」そのものでした。

すでに「乳と卵」を読まれた方は、再びあの強烈な物語と卵のシーンを読むことができます。

つまり、第一部は「乳と卵」で、第二部が小説「夏物語」の本編となっております。

 

第二部は、第一部の8年後の38歳になった夏子の物語で、夏子自身の事情により精子提供を考えていることからはじまります。

第一部の巻子や緑子に加え、編集者の仙川涼子や小説家の遊佐、AIDで産まれた逢沢潤、同じくAIDで産まれた善百合子、書店アルバイト時代の主婦の紺野といった、新たな強い光をもった登場人物たちによって、生む側、産まれる側の対局からの混じり合いえぐり合い、物語が音をたてて速度が増していくような、「生」を極限まで掘り下げ、生まれてくることとはどういうことなのか、産まれることとは良いことなのか。会いたいってどういうことなのか。夏子がどう進んでいくのか――。という物語です。

 

読了後・・いや・・本当に凄い本だなと・・。

登場人物のベクトルの位置や向きが様々でいて強力で・・その矢印同士が衝突した時に発生する熱量が凄くて、その熱量を川上未映子さんによって言語化されていて、読んでいて言葉についていけない感じに陥ってしまいます。川上未映子という才能に振り回されているswitchの構図です。

なんというか・・この振り回されている感覚。そこが、文学だなと、文芸だなと、あらためて凄い作家さんだなと思いました。特に第二部の終盤の盛り上がり方は常軌を逸したカオスです。そして、カオスの果ての終盤は最高でした。

 

ネタバレを書くことが嫌なので、川上未映子さんのセンスある言葉をピックアップしてみました。

 

■ 風景描写編

残された熱気とともに夜へむかい、ゆっくりと沈んでいこうとしている夏の夕刻は、いろんなものがこんなにはっきり見えるのに、いろんなものがあいまいだ。懐かしさとか優しさとか、もう取りかえしがつかないことやものたちで満ちていて、そんなもやのなかを歩いていると、おまえはこのまま進むのか、それとも引き返すのかを問われているような、そんな気がしてしまう。(p54)

目をこらせば遥か上空で吹いている風がみえ、手を伸ばせば、世界を包んでいる膜にそっとふれることができそうだった。二度と再現することのできないメロディのように、空は色を映していた。p148

これまでのすべての夏がそうだったように、いつのまにか熱は去り、吹く風の底のほうに秋のにおいがうっすらと感じられるようになった。空はこちらにむかって手をふるように高くなり、雲はどんどん引き伸ばされて薄くなって、誰かの面影みたいに消えていった。p225

風景描写は言葉じゃなくて、もはや芸術なのではないかと思います。

 

■ 自我・感覚編

でもそのあと、わたしは気づいたことがあって、お母さんが生まれてきたんは、おかあさんの責任じゃないってこと。 (p88)

第一部の緑子の考え。子どもなのに、凄い思考・・。

きれいさとは、良さ。良さとは、幸せにつながるもの。幸せにはさまざまな定義があるだろうけれど、生きている人間はみんな、意識的にせよ無意識にせよ、自分にとっての、何かしらの幸せを求めている。どうしようもなく死にたい人でさえ、死という幸せを求めている。自分というものを中断したいという幸せを求めている。(p64)

「自分にとって最高の存在で、それで最大の弱点。それが日に日に自分の外で大きくなって、事故とか病気で死ぬかもしれないことをいっしゅんでも考えると息もできないくらいに怖い。子どもって恐ろしい存在だよね」(p382)

他人との生活っていうのは、良くも悪くもお互いがそれぞれ作ってきたディテールが衝突する過程だけで成りたっていて、その緩衝材としてつねに信頼ってものが必要になるんだよ。あとは恋愛で頭がおかしくなってるとかね。どっちもなくなったら嫌悪しか残らないの。(p386)

自分のこどもがぜったいに苦しまずにすむ唯一の方法っていうのは、その子を存在させないことなんじゃないの。生まれないでいさせてあげることだったんじゃないの。(p435)

忘れるよりも、間違うことを選ぼうと思います。(p525)

 

■ 感情編

まんこつき労働力 (p301)

なんというハイセンスな単語・・。遊佐さんカッコいい。

誰も褒めてくれないからって人の仕事を使って自分の安っぽい自尊心を満たそうとするんじゃねえよ。 (p243)

再び遊佐さんの言葉。強い・・。

ねぇ、書けない時期っていうのは誰にもあるものなの。肝心なのはそれでも物語を捉えて離さないことです。小説のことだけを、人生を賭けて考えてほしいの。あなたは本当に小説が書きたくて、小説家になったんじゃないの。(p400)

自分の才能と物語に引きずりまわされて、その引力のなかで生きていくのが作家なんだから。(p400)

誰にでも読める言葉で、手垢のついた感情を、みんなが安心できるお話を、ただルーティンで作っているだけ。あんなのは文学じゃないわ。文学とは無縁の、あんなのは言葉を使った質の悪いただのサービス業ですよ。(p400)

ねえ、いまお書きになってるものがどうにも動かないようならね、それはそこに、その小説の心臓があるんです、それこそが大事なんです。すらすら書ける小説に何の意味が?ためらわずに進んでいける道になんの意味が?(p400)

仙川涼子の言葉。言葉に対する熱が感じられますね。

 

そりゃ痛いだろうよ、生きてんだから。(p387)

生まれてきたことを肯定したら、わたしはもう一日も生きてはいけないから(p526)

 

 

最後に

 

川上未映子先生の文章は、ひらがなの割合が多かったり、句読点の使い方に特徴があったりと、容易く読ませてくれません。それが川上未映子先生の作風なのですが、その作風に表現や熱量が上乗せされて読み手が言葉を受け取っていくので、読み手が物語の世界に入り込んでいる感覚が凄いです。

もう・・終盤の熱量の上がり方なんか・・異常というかカオスでした!これ以上書いてしまうと、ネタバレになってしまいかねないので、割愛させて頂きますが、この夏!是非とも川上未映子先生の最新刊、「夏物語」を読んでみてはいかがでしょうか?

 

この人の本は大脳皮質がチリチリとショートする。

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